日本では高齢化社会が進み、財産の所有者が認知症になったり急逝するケースが増加しています。
こういったケースでは親族が様々な対応を迫られることになり、大きなトラブルとなることもあるでしょう。
例えば家の所有者が認知症となった場合、家の管理はできても売却や賃貸に出すことは所有者の意向なしにはできません。
また、急逝した場合は相続人全員で遺産分割協議をする必要があり、場合によっては時間や費用が発生します。
このようなトラブルが増加する一方、解決策の一つとして民事信託や家族信託がフォーカスされるようになりました。
こういった信託による解決策は柔軟性があり、所有者や親族の意向を汲みやすい契約形態となるため非常に優秀な方法だといえるでしょう。
そこで、この記事では民事信託と家族信託の特徴やメリットとデメリットについて解説します。
目次
民事信託と家族信託とは
「信託」とは「誰かに任せる」という意味があり、民事信託と家族信託は自分の保有している財産の管理や運営、処分を任せる仕組みのことです。
民事信託には委任者と受託者という立場があり、それぞれの役割を把握する必要があります。
そこで、下図の全体像をまずは把握しましょう。
財産の所有者は家族や信頼できる人と信託契約を締結し、それぞれ委託者と受託者という立場になります。
信託契約が締結されると委託者が保有する財産は受託者に移転され、受託者が所有権を保有します。
これにより受託者は信託された財産を自由に管理、運営、処分することができますが、得られた利益は指定口座に振り込まれ、使用できるのは委託者です。
このように、民事信託や家族信託は委託者のために信託財産を利活用することを目的とした仕組みだといえます。
なお、民事信託と家族信託に違いはなく、家族信託とは受託者が委任者の家族である場合に使わる呼び名です。
「家族信託」という言葉は一般社団法人家族信託普及協会が商標登録しており、法律用語ではないため注意しましょう。
(参考サイト:商標登録につきまして | 一般社団法人 家族信託普及協会)
民事信託と家族信託のメリットとデメリット
民事信託や家族信託にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
2つの信託は財産を円滑に管理する方法として優秀な方法ですが、次に挙げるメリットとデメリットを把握し後悔のない選択をしましょう。
なお、民事信託は多くのケースで家族や親族が受託者となります。
そのため、ここでの解説においても受託者が家族である前提として解説します。
メリット
民事信託のメリットは次の通りです。
・安心して委託できる
・委託者の影響を受けることがない
・契約内容が非常に柔軟に設定できる
安心して委託できる
民事信託は家族が財産を管理、運営、処分の判断をするため安心して委託することができます。
そのため、受託者が財産を利活用している場合であっても委任者や委任者の家族が意見をすることができるというメリットがあります。
委託者の影響を受けることがない
通常、財産を保有している人が自己破産したり経営破綻すると財産を差し押さえられることになります。
しかし、民事信託契約を締結している場合は受託者に所有権を移転させるため、財産差し押さえの影響を受けることができません。
そのため、自身の破綻が親族や家族に影響することを防ぐ効果もあるといえるでしょう。
契約内容が非常に柔軟に設定できる
信託契約の内容は委託者と受託者間である程度自由に設定することができます。
例えば後述する遺言や成年後見人制度ではできないような、受託者の後継者設定も可能です。
そのため、アパート管理や経営など特定の家族に任せたいケースでは非常に便利な仕組みだといえます。
デメリット
民事信託には大きなデメリットが2つあります。それは、確定申告が複雑になるという点と課税です。
民事信託により信託財産を管理し、年間3万円以上の利益がでた場合には確定申告が必要となります。
その際には「信託計算書合計表」と「信託計算書」「信託財産明細書」を税務署に提出する必要があり、さらに利益について課税されます。
そのため、受託者は管理運営するだけでなく書類整理という意味で非常に多くの時間が必要となるでしょう。
他の財産管理との比較
財産の管理を自分以外の誰かに任せるという意味では「遺言」と「成年後見人制度」がありますが、民事信託とはどのような点で違いがあるのでしょうか。
ここでは民事信託と遺言、成年後見人制度との違いについて解説します。
・遺言との違い
・成年後見人制度との違い
遺言との違い
民事信託契約では受託者を二次受託者、三次受託者というように後世にわたり設定することができますが、遺言は原則一次相続人にしかできません。
そのため、財産を長期間安定管理して欲しい場合には遺言は不向きだといえます。
また、信託財産以外にも財産がある場合は他の相続人とトラブルになることもあります。
そのため、民事信託契約や遺言書を作成する前に財産をどのように扱うのかをあらかじめ親族全員で話し合い、全員の合意を得ておきましょう。
成年後見人制度との違い
成年後見人制度は司法書士や弁護士など第三者に財産管理をする可能性があり、さらには利活用について大きく制限されます。
例えば民事信託であれば不動産の処分を自由に実施できますが、成年後見人制度では裁判所の許可が必要となります。
このように、民事信託と成年後見人制度では財産の管理や運用、処分の自由度が大きく違うという点を知っておきましょう。
まとめ
民事信託と家族信託は家族の財産を有効に活用し、さらには委任者の生活を守る上で非常に有効な手段だといえます。
そのため、財産の管理を後の世代においても安心して進めたい場合には、民事信託と家族信託を検討することをおすすめします。